やっぱりやらずにはいられなかったらしい

ヘイハチ語りです。25話まで放映した所でこの人についてはひと区切りと言う事で。
元々このアニメ、OPの映像が気に入った事ともう1つ、「リュートを彷彿とさせるのほほん面の糸目がいる」って理由で見始めたんですよ。つっても本気になって欠かさず見るようになったのは5話から、つまりヘイハチが本格的に出て来る様になってから。そんな理由だったモンだから、あっちこっちのサイトを巡り始めたらこの人無茶苦茶人気者でびっくりしましたさ。
それはともかく、ここから長いんでそこんトコ注意。しかも豪快にネタバレありですヨ。


ヘイハチは和み系の笑顔だけれども、実はあまり余裕が無いと言うか自分の事でいっぱいいっぱいなタイプだと思う訳で。それが裏切りに対する激烈な反応とか、2度目の蛍屋でアヤマロと遭遇した時やカンベエが信じると言うなら信じると言った時のあの態度とか、小説版でてるてる坊主が無くなっている事を指摘したキクチヨに対する反応に出ると言うか。
その所為か、あっちこっちで見掛ける“実は結構かなり黒い”という風には自分には見えないんだよね。ふとしたきっかけでそう言った余裕の無さや、過去に自分が犯した罪の意識から来る怒りの感情が顔を出すと言うイメージです。ただその怒りの対象が自分なのか他人なのかって事だと思うんだ。黒く見えるのは普段が笑顔で怒る様に見えないからそのギャップの為であって、つまりはその姿を見慣れないが故にそう言われるのではないかと。
むしろ元々陽気な人物だったんじゃないかと思うんだよなあ。陽気と言うか楽天的と言うか。利き酒ならぬ利き米なんて案外宴会芸として披露してたんじゃないかと思われ。それに戦後の日々を「金が無いのでその代わりに薪を割らせて下さい」と言ってしっかり労働で対価を支払っている辺り、SaGaFrontierのリュートじゃないけど“なんとかなるさ”的な意識が根っこの方にある様な気がするんだよ。
それが変質した原因は、やっぱり戦場にあるのではないかと。工兵だから前線に出る事はまず無いとは言え(むしろそうなったら確実に負け戦だし死を覚悟するしかないと言うか)戦場にいる以上は常に死と隣り合わせな訳で、それと折り合いをつける事が出来たならともかく、そうでなかったらその死の恐怖と闘わなければならない。
だけど折り合いがつけられるまで敵は待ってちゃくれない訳で、いざ戦闘状態に入ったら被弾して爆発に巻き込まれたりとか流れ弾に当たったりしてぶっ倒れたりヘタしたらあっちこっち吹き飛ばされて無残な死体になった仲間の姿を横目に艦の修復やら何やらに走り回らなければならないから、怯えて逃げようものなら却って死がすぐ傍まで近付いて来る訳で。だからその何ともならない状況の中で、死にたくないと言う意識の為に視野狭窄を起こして自分が生き延びる事しか考えられなくなった結果が裏切りだったのではないかと思うのな。
そんな訳であの笑顔も自分がやってしまった事の結果を目の当たりにして、発狂する程泣いたり笑ったりしている間に出来上がっていったものなんじゃないかと考える。小説版のゴロベエとの違いはゴロさんが笑うしか出来なくなってしまったのに対して、ヘイハチは他の感情もあるけれども顔に笑い顔が張り付いてしまったと言う感じ。笑い方にしてもゴロさんは大口開けて豪快に笑うけれども、ヘイハチはせいぜいけたけた笑うぐらいで後はあの顔のままにやにやにまにましているし。


カツシロウに対しては小説版でちみっこ2人に話していた戦時中の自分の話から、恐らくその頃の自分の姿を重ねていたのでは。そんでもって自分の様になって欲しくなかったから「裏切りは良くない」とか言ったり最後に迎えに来たりしたのではないかと。……尤も、迎えに来た理由の1つに自分が機関部切り離し作業をしている間の護衛が欲しかったってのもありそうな気がしますがー。
とは言えヘイハチ自身に余裕が無い故にカツシロウの余裕の無さに気を回し切れず、「裏切りは良くない」発言のあの時点ではヘイハチの言う事をカツシロウがまだ受け入れ切れない事が解らない(カツシロウはただカンベエに認められたいと言う事で頭が一杯で他のサムライの事はあまり見ていない所があるし。唯一キュウゾウにだけはその無類の強さに憧れている様だけれども)。そして戦艦に乗り込んですぐ、キュウゾウが撃たれた(様に見えた)事にカツシロウが助けに行こうとするのを止めて(この辺りウロ覚えですスイマセン)「これも戦です」と言う所は、既に作業の事で頭が一杯で気を回す余裕が無いとも、経緯はどうあれ大戦を生き延びた者と戦場の経験が殆ど無い者との余裕の差とも見えますがそれはともかく。
それでも迎えに行った時に1度は突っぱねられても様子見しながら待つ事が出来る程度には最後は余裕が出来てきたと言うか、それとも自分の作業の護衛の為に引っ張り込もうと言う勝手な思惑以上にカツシロウも天守閣戦艦へ連れて行くべきだと思っていたのか。そーいや小説版の7巻は最後まで見てから読もうと思ってまだ手を付けてないんだよなあ。この辺りはそれからだな。とりあえずアニメではカツシロウを連れてくるように指示された形跡は無いと言う事で。でも出来ればアニメの方もちゃんと頭から見たいなあ。……DVD、買うか?


処で切り離し作業中に撃たれた後も血を流してふらふらになりながらこれが終わったら腹いっぱい米を食うんだと言い聞かせるように呟いて作業を終わらせようとしてる所とか、斬艦刀に挟まれて何かを覚悟したような笑顔でカツシロウに行く様に言いながら爆破スイッチを入れる所とか、「米が食いたーい!」と叫びながら帽子を取ってその帽子が手から離れて行く所とかもうずっと瞼の裏でエンドレスなんですが。
撃たれた後の「これが終わったら……」って呟いてる時は多分もうここで止まったら大戦中に裏切った時と同じだろうとか思ってたんじゃないかとか。最後のあの叫びももっと生きていたいと言う叫びにも聞こえてきたりとか。
そしてBUMP OF CHICKENの「ギルド」がヘイハチを連想させてもう泣けてくるんですが。前から好きな曲だったけれども、まさかこう来るとは思わなんだー。

美しくなんかなくて 優しくも出来なくて
それでも呼吸が続く事は 許されるだろうか
その場しのぎで笑って 鏡の前で泣いて
当たり前だろう 隠してるから 気付かれないんだよ
夜と朝を なぞるだけの まともな日常

とにかく歌詞全体がそう聞こえるんだけれども、この部分が特にイメージが来る。あと“構わないから その姿で 生きるべきなんだよ”の辺りとか。何つーか罪の意識に押し潰されそうでいっぱいいっぱいなカンジで。